Vol.53, No.1 (2025)
【 目次 】
浴槽水等のレジオネラ属菌検査におけるレジオラート/QT法と平板培養法の比較検討
- 表題:
- 浴槽水等のレジオネラ属菌検査におけるレジオラート/QT法と平板培養法の比較検討(原著論文)
- 著者:
- 淀谷雄亮,西里恵美莉,小嶋由香(川崎市健康安全研究所),佐々木麻里(大分県衛生環境研究センター),蔡 国喜,井原 基,田栗利紹(長崎県環境保健研究センター),栁本恵太(山梨県衛生環境研究所),緒方喜久代(大分県薬剤師会検査センター),武藤千恵子,梅津萌子,髙久靖弘(東京都健康安全研究センター),山口友美(宮城県保健環境センター),前川純子(国立感染症研究所 細菌第一部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.1,pp.3-8(2025)
レジオネラ属菌の検査で広く用いられる平板培養法と,Legionella pneumophilaを定量的に検出する簡便なキットであるレジオラート/QT法について比較検討した。2019年から2021年にかけて国内で採取された浴槽水等685検体について検討したところ,平板培養法と比較したレジオラート/QT法の感度は70.9%,特異度は92.2%であり,結果一致率は85.3%であった。検出菌量は強い相関が認められ,不一致であった検体の73.3%は30 CFU/100 mL又は30 MPN/100 mL未満であった。レジオラート/QT法は浴槽水等において平板培養法と同等の検査法であり,複雑な平板培養法に代わる検査法となりうる。
Key words:Legionella spp.(レジオネラ属菌)/Detection method(検出法)/Public bath facilities(入浴施設).
最新版「レジオネラ症防止指針第5版」について
- 表題:
- 最新版「レジオネラ症防止指針第5版」について
- 著者:
- 古畑勝則(麻布大学 生命・環境科学部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.1,pp.9-14(2025)
わが国で,はじめてレジオネラ症が発症したのは1980年10月28日である。その後,40年あまりを経過した現在でも報告数は残念ながら右肩上がりである。これまで感染源となる様々な人工的水環境でレジオネラ属菌の制御が行われてきた。現場の方々のご努力には頭が下がる思いである。しかし,レジオネラ属菌はそれをあざ笑うかのように増え続け,感染症の拡大は止まらない。レジオネラ属菌が環境中で容易に増える特性を持ち合わせていることと,その生息環境が多岐にわたることから画一的な制御方法が打ち出せないことが大きな要因である。しかし,我々は歩みを止めるわけにはいかない。レジオネラ属菌の特性を十分に理解し,個々のフィールドに適した策を考え続けていく。それには礎となる本指針が必ず必要である。
Key words:Legionella spp.(レジオネラ属菌)/Legionellosis(レジオネラ症)/Prevention guidelines(防止指針).
歯科医療分野における微生物制御
[10]口腔内細菌叢と腸内細菌叢の関連性
[10]口腔内細菌叢と腸内細菌叢の関連性
- 表題:
- 歯科医療分野における微生物制御 [10]口腔内細菌叢と腸内細菌叢の関連性
- 著者:
- 庭野吉己(秀明大学 看護学部 専門基礎分野)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.1,pp.15-23(2025)
口腔内には腸内フローラに次ぐ細菌数が存在すると言われる。口腔内や腸内の正常な細菌叢の構成異常をdysbiosisと言い,口腔内細菌叢のdysbiosisによって引き起こされる疾患の一つに歯周病がある。われわれは,1日当たりおおよそ600 mLの唾液を飲み込むが,その唾液1 mL中には10の9乗個にいたる細菌が存在する。従って,唾液中に存在する歯周病原因菌などが胃酸の影響を回避して腸内まで到達し,腸内細菌叢に影響を与える可能性は否定できない。事実,バイオフィルム状に培養した歯周病原因菌の一つであるPorphyromonas gingivalisはその他の歯周病細菌と比較して耐酸性が高いことが示されている。加えて,歯周疾患病変部位からのLPSや炎症性サイトカインの血中移行を介して腸管免疫および腸内細菌叢に影響を与える可能性もある。本稿では口腔内細菌叢,腸内細菌叢,全身性疾患の関係を示唆する研究を糖尿病,動脈硬化性疾患および関節リウマチを例に紹介していく。
Key words:Oral bacterial flora(口腔内細菌叢)/Intestinal bacterial flora(腸内細菌叢)/Diabetes(糖尿病)/Arteriosclerotic diseases(動脈硬化性疾患)/Rheumatoid arthritis(関節リウマチ).
災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題 [1]開講にあたって
- 表題:
- 災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題 [1]開講にあたって
- 著者:
- 小野朋子((株)エイチ・エス・ピー 研究開発部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.1,pp.25-27(2025)
日本は,地理的条件から地震や洪水等の災害が多い国であり,災害への事前の備えおよび発生後の適切な対処が重要となる。本講座では,災害リスクのうち微生物学的リスクについて取り扱う。避難所内等での災害特異的な感染症への対応は近年法的な体制が整いつつあるが,それ以外の観点も重要である。清潔な水の供給および安全性確保,住環境におけるカビ被害,文化財や紙媒体の微生物学的汚染,備蓄品や救援物資における微生物的観点など,多面的な観点から災害時のリスク低減について,諸先生方からの情報提供を頂く予定である。
Key words:Disaster(災害)/Shelter(避難所)/Disinfectant(消毒剤)/Water Facilities(水道施設)/Mold contamination(カビ汚染)/Emergency rations(非常食).
「胞子」をつくる細菌と真菌の基礎講座
[7]糸状菌と細菌の共生関係
[7]糸状菌と細菌の共生関係
- 表題:
- 「胞子」をつくる細菌と真菌の基礎講座 [7]糸状菌と細菌の共生関係
- 著者:
- 竹下典男(筑波大学 生命環境系 微生物サステイナビリティ研究センター(MiCS))
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.1,pp.29-32(2025)
地球上のあらゆる場所において,微生物は多種多様な群集を形成する。特に土壌では,多種多様な細菌と糸状菌が存在し,バイオマスの大半を占める。それら微生物群集の機能は,有機物の分解,栄養循環の制御,植物の生長,土壌構造の生成など多岐に渡り生態系の維持に貢献する。その中でも細菌と糸状菌の相互作用とバランスは,微生物群集の構成と機能にとって重要であることが明らかになってきた。細菌と糸状菌の共生相互作用は,ポジティブなものからネガティブなものまで様々である。これまでに私は,寒天培地上での糸状菌Aspergillus nidulansと細菌Bacillus subtilisの共培養系をモデルとして,細菌が菌糸に沿って移動・拡散し生存空間を広げることを示した。一方,細菌が菌糸先端まで移動し,ビタミンB1(チアミン)を糸状菌に与えて菌糸生長を促すことを発見し,空間的・代謝的相互作用からなる相利共生を提唱した。
Key words:菌糸/Aspergillus/枯草菌/相利共生/チアミン.
会報 …36 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.2 (2025)
【 目次 】
ヨウ素の新型コロナウイルスに対する不活化効果及び口腔咽喉薬のウイルス不活化ならびに殺菌効果
- 表題:
- ヨウ素の新型コロナウイルスに対する不活化効果及び口腔咽喉薬のウイルス不活化ならびに殺菌効果(原著論文)
- 著者:
- 上地里佳枝,大森広太郎,鳥井一宏,富岡寿也,五味満裕,野崎 学(小林製薬(株)),中嶋絵里,西田倫希,射本康夫((一財)日本繊維製品品質技術センター)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.2,pp.37-46(2025)
新型コロナウイルス感染症の蔓延をきっかけに感染症対策意識は世界的に高まった。急性咽頭炎を引き起こす病原体として新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の他にも様々なウイルスや菌が知られており,これら病原体を不活化できる口腔咽喉薬を使用することは感染症対策の上で重要である。本研究では市販口腔咽喉薬に配合される有効成分であるヨウ素のSARS-CoV-2不活化作用と,ヨウ素を含む口腔咽喉薬成分の急性咽頭炎起炎ウイルス及び菌に対する不活化作用を検証した。結果,ヨウ素は幅広い病原体を短時間で不活化し,一部のウイルスに対してはポビドンヨードやセチルピリジニウム塩化物よりも高い効果を示したことから,ヨウ素配合口腔咽喉薬の感染症に対する有用性が示唆された。
Key words:Iodine(ヨウ素)/Oropharyngeal medicine(口腔咽喉薬)/SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)/Virus inactivation(ウイルス不活化)/Sterilization(殺菌).
粉体殺菌技術のイノベーション
- 表題:
- 粉体殺菌技術のイノベーション
- 著者:
- 三野あすみ((株)フジワラテクノアート)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.2,pp.47-49(2025)
粉体の殺菌については,安全性が担保され,品質低下を抑制できる技術が広く求められている。加熱殺菌は安全性が高い一方,粉体の品質低下や装置への付着といった課題があり,非加熱殺菌の代表であるγ線殺菌は安全性に対する懸念を払拭できていない。この現状のもと,当社は粉体殺菌装置SonicSteraを開発した。本装置は,粉体を加圧条件下で水蒸気と接触させ粉体粒子表面の加熱を行った後,瞬間的に大気圧下に開放することで,粉体表面の細菌を殺菌する装置である。水分の気化,膨張という物理的な力により細菌の細胞破壊が起こり,殺菌効果を示していると推定される。実際に同じ加熱温度,加熱時間でSonicSteraと一般的な加熱処理の比較を行い,SonicSteraが高い殺菌能力を示すことが確認されている。殺菌に使用するのが水蒸気とエアーであり安全性が高く,加熱時間が非常に短く加熱殺菌と比べて粉体の品質低下を抑制することができる。粉体殺菌における新しい選択肢として本技術の詳細を紹介する。
Key words:Powder Sterilization Technology(粉体殺菌技術).
薬用ソープの基礎知識および殺菌・消臭・皮膚刺激性試験
- 表題:
- 「薬用ソープの基礎知識および殺菌・消臭・皮膚刺激性試験」
- 著者:
- 鈴木利彦,横山明浩,玉舟亮太(ピジョンホームプロダクツ(株) 開発部開発2G)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.2,pp.51-57(2025)
現在イソプロピルメチルフェノールや硝酸ミコナゾールを有効成分とした医薬部外品殺菌薬用ソープの開発依頼が多々あります。今回最近の薬用ソープの基礎について情報をまとめ,処方組み合わせを変更することで殺菌・消臭・皮膚刺激性試験について調査をしました。本情報を一般開示し正しい製品開発や製品購入知識向上を促し産業の発展を促進することを目的としています。
Key words:Sterilization(殺菌)/Deodorization(消臭)/Irritative(刺激性)/Medicated Soap(薬用ソープ)/Isopropyl Methylphenol(イソプロピルメチルフェノール)/Ethylhexylglycerin(エチルヘキシルグリセリン)/Miconazole Nitrate(硝酸ミコナゾール).
歯科医療分野における微生物制御 [11]プロバイオティクスとプレバイオティクスの歯科応用
- 表題:
- 歯科医療分野における微生物制御 [11]プロバイオティクスとプレバイオティクスの歯科応用
- 著者:
- 庭野吉己(秀明大学 看護学部 専門基礎分野)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.2,pp.59-67(2025)
プロバイオティクス(probiotics)およびプレバイオティクス(prebiotics)は,有害な病原性細菌を抑制する抗生物質(antibiotics)に対して提案された用語であり,前者は「適正な量を摂取したときに宿主に有用な作用を示す生菌」,後者は「大腸の有用菌の増殖を選択的に促進し,宿主の健康を増進する難消化性食品」と定義された。プレバイオティクスの定義については,2017年に「A substrate that is selectively utilized by host microorganisms, conferring a health benefit」と提唱され,宿主の大腸内に共生している微生物に限るものではなく口腔内細菌も対象となると解釈される。プロバイオティクスの例としては,ヒトの腸に存在するビフィズス菌や乳酸菌などがあり,宿主に有用な作用として下痢や便秘の抑制作用がよく知られている。プレバイオティクスの例としてはオリゴ糖や食物繊維などがよく知られており,整腸やミネラル吸収促進などの有益な作用が報告されている。本稿では特に歯科領域におけるこれらバイオティクスの応用の可能性について論じる。
Key words:Probiotics(プロバイオティクス)/Prebiotics(プレバイオティクス)/Symbiotics(シンバイオティクス)/Periodontal diseases(歯周疾患)/Caries(う蝕).
海外文献抄録 …坂上 吉一…50
会報 …68
カレンダー …和文目次裏
<English> Vol.53,No.2 (2025)
Vol.53, No.3 (2025)
【 目次 】
浴槽水における大腸菌検査法の検討
- 表題:
- 浴槽水における大腸菌検査法の検討(短報)
- 著者:
- 小松頌子,藤永千波,田中 忍,中西典子(神戸市健康科学研究所 感染症部),武藤千恵子,梅津萌子,髙久靖弘,大谷彩恵,田中和良,木下輝昭,猪又明子(東京都健康安全研究センター 薬事環境科学部),佐々木麻里(大分県衛生環境研究センター 微生物担当)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.3,pp.69-73(2025)
公共用水域の水質汚濁を防止するため,近年,放流水の基準が大腸菌群数から大腸菌数へと改正されている。本研究では,浴槽水中の大腸菌検出法を検討するため,市販の特定酵素基質寒天培地の特徴づけとコロニー数の比較を行い,実際の浴槽水における大腸菌の検出状況を定量・定性試験により調査した。その結果,培地によってコロニーの識別のしやすさや生育するコロニー数に差があり,一部の培地では大腸菌が非定型色を示すことが分かった。実際の浴槽水126検体において,13検体(10.3%)から大腸菌が,15検体(11.9%)から大腸菌群が検出された。青色を呈するコロニーは大腸菌であり,赤色を呈するコロニーはエンテロバクター属,シトロバクター属,セラチア属が多かった。また,大腸菌の定性試験では,温泉水では偽陰性となる可能性があることが明らかとなった。
Key words:Escherichia coli(大腸菌)/Bathwater(浴槽水)/Specific enzyme substrate medium(特定酵素基質培地).
HACCP誕生の舞台裏―ピルスベリー社におけるFDAのためのHACCP概念の講習会―
- 表題:
- HACCP誕生の舞台裏―ピルスベリー社におけるFDAのためのHACCP概念の講習会―
- 著者:
- 宮尾宗央(東洋食品工業短期大学 准教授),米虫節夫(大阪公立大学大学院工学研究科 客員教授)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.3,pp.75-82(2025)
1971年の第一回米国食品防護委員会のProceeding,1972年にヒルズベリー社がFDA食品衛生監査員に対する実施したHACCP講習会記録資料よりHACCP誕生の舞台裏を紹介する。Proceedingにおいて,Baumanは食品や食品システムのHAの概念と,品質を確保するためのCCPの確立が提示され,普及が推奨されたと述べているが,HACCPという用語自体は使用していない。HACCP講習会の記録によるとヒルズベリー社はHA,CCPの定義を述べ,HACCPによる食品安全性の確立に関して品質管理の基礎から示している。また微生物学の基礎知識に加え,推測統計学を重視している。実務編では操業状況を監督するため,加工業者の品質管理水準の判定,サンプリング計画の評価といった点まで示している。さらには,業界団体(NCA)より規制強化が要求されていた缶詰産業へのHACCPの利用に関しても詳細に示している。これらの点で他とは一線を画す素晴らしい講習会記録であるといえる。
Key words:HACCP(HACCP)/FDA(FDA)/Canned Foods(缶詰食品)/Regulation(規制)/Inferential Statistics(推測統計学).
災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題
[2]災害時の避難所・避難生活の衛生対策
[2]災害時の避難所・避難生活の衛生対策
- 表題:
- 災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題 [2]災害時の避難所・避難生活の衛生対策
- 著者:
- 中臣昌広(オフィス環監未来塾 代表)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.3,pp.83-89(2025)
「災害時における微生物汚染の対策の重要性と今後の課題」を,避難所・避難生活の衛生対策から考える。2024(令和6)年1月1日に起きた令和6年能登半島地震は,地震の規模マグニチュード7.6,最大震度7を観測して能登半島を中心に強い揺れが起きた。9月21日には,前線や低気圧の影響で,石川県で記録的な大雨となり,輪島市や珠洲市などで土砂崩れ,浸水被害が広がった。奥能登豪雨である。能登半島地震,奥能登豪雨の被災地をとおして,避難所・避難生活の衛生対策を掘り下げていく。災害時における微生物汚染を,レジオネラ属菌,食中毒菌,カビの三つの項目から深く見る。災害時に大切なのは,平時と同様に,微生物汚染による健康被害を起こさないことだ。市民の命・健康をままもることである。私が所属した,公衆衛生の最前線にある保健所の役割・目指すものと重なる。
Key words:Disaster(災害)/Evacuation Shelter(避難所)/Hygiene Measures(衛生対策)/Public Health Center(保健所)/Environmental Health Inspector(環境衛生監視員).
会報 …102 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.4 (2025)
【 目次 】
医療介護用ユニフォームに対する蛋白質存在下における微酸性電解水の殺菌効果に関する検討
- 表題:
- 医療介護用ユニフォームに対する蛋白質存在下における微酸性電解水の殺菌効果に関する検討
- 著者:
- 上田柊太(文京学院大学大学院 保健医療科学研究科),眞野容子,古谷信彦(文京学院大学大学院 保健医療科学研究科,文京学院大学 保健医療技術学部 臨床検査学科),藤田和恵(日本医科大学付属病院 医療安全管理部感染制御室・呼吸器内科),鷲尾洋平(日本医科大学付属病院 臨床検査部),中村翔太郎(日本医科大学付属病院 医療安全管理部感染制御室)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.4,pp.103-107(2025)
薬剤耐性菌は白衣に定着しやすく,感染のリスクが高いため,医療従事者の白衣の消毒は重要な感染対策である。微酸性電解水(SAEW)は,厚生労働省より食品添加物・殺菌剤として指定されており,安全性が確認されている。本研究では,耐性菌の蔓延を防止するために,医療用ユニフォームの適切な洗濯・消毒方法を検討することを目的とした。さらに,医療関連感染の原因となる病原体に対するSAEWの殺菌・洗浄効果を検討し,蛋白質の存在下での殺菌効果を評価した。市販洗剤と水道水で洗浄した後には細菌の残留が認められたが,SAEWと次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)は,蛋白質の存在に関わらず殺菌効果を示した。NaClO単独と比較し,SAEWはより低い塩素濃度で効果を発揮し,環境への負荷を軽減する。このことから,SAEWは医療関連感染の原因となる病原体を除去・消毒するための効果的な方法であることが示唆された。
Key words:Medical Care Uniforms(医療介護用ユニフォーム)/Slight acidic electrolyzed water(微酸性電解水)/Sodium hypochlorite(次亜塩素酸ナトリウム)/Drug-resistant bacteria(薬剤耐性菌)/Disinfection(消毒).
加工食品の製造流通におけるカビ対策
- 表題:
- 加工食品の製造流通におけるカビ対策
- 著者:
- 枳穀 豊((株)日本総合科学)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.4,pp.109-115(2025)
カビと人間との関りは有史以前から存在し,好ましい面では発酵食品への利用があり,好ましくない面では,カビ毒による健康被害,腐敗による栄養損失に加え,市場での商品価値の損失があげられる。食品製造および流通中のカビ汚染対策には,カビの混入ルートをよく分析する必要がある。原料や資材への付着,作業者の持ち込み,空中浮遊菌などに加えて,殺菌工程や密封不良が考えられる。それぞれに防止対策を施すと共に検査やモニタリングをすることが重要である。食品工場でのカビ汚染防止は「食中毒防止三原則」と同じで,「つけない」,「増やさない」,「やっつける」の実践である。無論,設備装置の抗菌化やサニテーションにより工程内増殖を防ぐ必要がある。カビの増殖は温度,水分活性,pH,酸素,食品成分などで制御できる可能性がある。ただし,カビには厳しい環境にも順応できる種類がおり,ひとつの因子で完全に抑制することは難しい。それぞれの因子を組み合わせて制御するハードルテクノロジーの活用が優れた対処方法だと考えられる。
Key words:Fungal spoilage(カビによる変敗)/Processed foods(加工食品)/Microbial contamination(微生物汚染).
災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題
[3]災害時の感染症リスク~飲料水の安全確保のために~
[3]災害時の感染症リスク~飲料水の安全確保のために~
- 表題:
- 災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題 [3]災害時の感染症リスク~飲料水の安全確保のために~
- 著者:
- 秋葉道宏,三浦尚之,島﨑 大(国立保健医療科学院生活環境研究部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.4,pp.117-121(2025)
我が国の近代水道は,江戸時代末期から明治時代にかけて蔓延したコレラ等の水系消化器系感染症の予防措置を第一の目的として,1887(明治20)年,横浜市において創設された。初めに国内外の洪水や津波等災害時の水系感染症の発生状況を述べた。また病原微生物コントロールを水道法の規定の枠組みを踏まえた上で概説した。水道の普及に伴って水系消化器系感染症の患者数は激減したが,1990年代以降は水道法の適用対象外の水道や新たな耐塩素性病原微生物による大規模な集団感染症事例を述べた。最後に,水道安全計画を活用した感染リスクの評価の研究事例を紹介した。
Key words:Water Supply(水道)/Water Supply Service Act(水道法)/Pathogenic Microorganisms(病原微生物)/Waterborne Disease(水系感染症)/Water Quality Management in Disaster(災害時の水質管理).
会報 …136 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.5 (2025)
【 目次 】
住宅におけるカビ制御
- 表題:
- 住宅におけるカビ制御
- 著者:
- 原田一宏((株)ダスキン 開発研究所 基礎研究室)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.5,pp.137-143(2025)
建築技術の発展により,高気密・高断熱の住宅が多くなってきている。それらは私達に快適な住空間を提供してくれている一方で,カビにも快適な温湿度環境を提供している。そのため,住宅でカビ汚れを見かける機会も少なくない。本稿では,これまで筆者が一般家庭への訪問調査で見てきたカビ汚れや先駆者が築き上げたデータを紹介し,一般の方でもできる住宅のカビ制御について概説する。具体的には,まず住宅のカビが私達の健康に与える影響について触れ,住宅におけるカビ制御の重要性を確認する。次にカビの基本的な成育条件を見直し,重点的に制御したい要因について説明する。最後に各部屋のカビ汚染の実態を紹介し,部屋ごとに実施できる対策について述べていく。
Key words:Fungus(真菌)/Indoor environment(住環境)/Contamination status(汚染実態)/Control method(対策方法).
災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題
[4]災害時における消毒剤の重要性
[4]災害時における消毒剤の重要性
- 表題:
- 災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題 [4]災害時における消毒剤の重要性
- 著者:
- 尾﨑恵太((株)ニイタカ 技術部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.5,pp.145-149(2025)
近年,国内において局所的な集中豪雨や大震災といった自然災害が多発している。このような自然災害発生時には,公衆衛生基盤が破壊され,避難所等の密集した空間における感染症リスクの増大が懸念される。感染症は感染源,感染経路及び感受性者の3つの要因が揃って初めて発生する。そのため,感染症の制御には感染源の除去,感染経路の遮断,感受性者の対策が重要である。中でも感染源の除去,感染経路の遮断において有効な消毒剤について,次亜塩素酸ナトリウム,エタノール,塩化ベンザルコニウムの3つを取り上げて,その特徴について紹介する。また,災害時の消毒・殺菌対策として手指衛生及び環境消毒があり,具体的な手順やその重要性についても述べる。
Key words:Disaster(自然災害)/Disinfectants(消毒剤)/Hand hygiene(手指衛生)/Disinfection of the environment(環境消毒)/Shelter(避難所).
家庭の安全・安心科学-家庭における微生物汚染とその対策-
[19]ファインバブル技術の産業化と家庭用品への利用
[19]ファインバブル技術の産業化と家庭用品への利用
- 表題:
- 家庭の安全・安心科学-家庭における微生物汚染とその対策- [19]ファインバブル技術の産業化と家庭用品への利用
- 著者:
- 谷口 暢(サラヤ(株)・(株)ポエマ)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.5,pp.151-157(2025)
ファインバブル(Fine bubble:FB)技術は,日本が世界に先行して見出した革新的な技術で,その起源は1998年と比較的に新しい。当初,徳山工業高等専門学校の大成博文教授は広島県カキ養殖業者から赤潮被害の改善依頼を受け,開発中であった水質浄化用の旋回式微細気泡発生装置の試作器をカキ筏に適したものに改良し,実際に,海面下に設置して実験を行った。この時の微細気泡の直径は50μm程度であったが,カキは死滅を免れた。その後,様々な魚介類の養殖(カキの他にホタテ,アワビ,エビ,ウナギなど)への利用が試みられ,同時に,FBの発生装置とその粒子径や粒度分布などの測定装置の開発が進められた。最近では,FB技術は多様な家庭用品へ利用され,身近なものになった。
Key words:Fine bubble(ファインバブル)/Microbubble(マイクロバブル)/Ultrafine bubble(ウルトラファインバブル)/Industrial application(産業利用)/Household goods(家庭用品).
家庭の安全・安心科学-家庭における微生物汚染とその対策-
[20]閉講にあたって
[20]閉講にあたって
- 表題:
- 家庭の安全・安心科学-家庭における微生物汚染とその対策- [20]閉講にあたって
- 著者:
- 谷口 暢(サラヤ(株)・(株)ポエマ)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.5,pp.159(2025)
本講座は,前回の食品製造業者を対象とした「食の安全・安心科学-食品製造現場・食品にかかわる微生物汚染とその対策-」の第2弾の家庭編として企画された。家庭編ともなれば,その内容は多岐にわたるが,「家庭の安全・安心」に直結するものをできる限り多く選び,理論・原理などの基礎的知識については学術研究者の先生方に,また,実践ポイントについては専門メーカーの先生方にご執筆をいただきました。各先生方には,様々な有益な情報をご提供していただき,この場をお借りしてお礼を申し上げます。さて,現在,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,第12波への備えが必要とされている。本講義が家庭において,さらなる衛生向上と感染症から身を守る「知識ワクチン」となることを願い,閉講の辞とさせていただく。
Key words:Safety and security science of food(食の安全・安心科学)/Safety and security science in home(家庭の安全・安心科学)/SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)/COVID-19(新型コロナウイルス感染症)/Knowledge vaccine(知識ワクチン).
衣類付着微生物の研究と博士学生のための情報
会報 …168 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.6 (2025)
【 目次 】
塵芥車用自動噴霧器に用いる水溶性揮発性化合物を主としたミスト液のウイルス不活性化およびメカニズム解析
- 表題:
- 塵芥車用自動噴霧器に用いる水溶性揮発性化合物を主としたミスト液의ウイルス不活性化およびメカニズム解析(短報)
- 著者:
- 石田浩彦,早瀬温子,平間結衣,宮本佳子,田添由起,森 卓也(花王(株))
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.6,pp.171-175(2025)
塵芥収集作業者は,日常の廃棄物処理システム維持のため,ウイルス残存可能性のある塵芥物による感染リスクに対して,十分な対策がなされないまま業務を継続しなければならなかった。我々は,ゴミ投入口および塵芥収集物のような形状が複雑な対象表面や,微細な粉塵の浮遊が予想される投入口底面から30 cm程度の高さの作業空間の曝露リスク低減を目指し,日用品または化粧品で使用実績がある化合物から3-Methyl-3-methoxybutanolを主剤とした塵芥車用自動噴霧器に用いるミスト液を開発した。本研究では,ASTM1052に準拠した方法により,ミスト液がA型インフルエンザウイルスおよびSARS-CoV-2に対して高い不活化活性を有することを実証した。さらに,ミスト液の浮遊・落下ウイルスに対する不活化効果を36 L空間モデル試験法で評価した。膜の流動性評価,蛍光物質を含む小胞の透過性の評価,電子顕微鏡観察によりミスト液のウイルス不活化機構を解析した結果,エンベロープ膜の破壊などの全体的・局所的な構造変化による不活化である可能性が示された。
Key words:Influenza A virus(A型インフルエンザウイルス)/SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)/Inactivation effect(不活化効果)/Mist solution(ミスト液).
ウナギと微生物
- 表題:
- ウナギと微生物
- 著者:
- 前田広人(鹿児島大学名誉教授)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.6,pp.177-179(2025)
これまであまり知られていない,ウナギと微生物に関する世界を紹介したい。現状では,国の研究プロジェクトとして,ウナギの人工的完全陸上養殖に成功してはいるが,まだ採算性に見合う商業的なレベルには至ってはいない。そのために,当研究室では,ウナギ仔魚に与えるピコプランクトンなどの微生物素材を加工した浮遊性餌料の開発を行ってきたが,完成には至っていない。今後も,上記のような商業的な完全養殖技術を確立するための研鑽が必要である。またそれが確立されても,その後の養殖の過程でダクチロなどの寄生虫病や骨曲がり症などの問題が残っているのでその対策も急がれる。
Key words:ウナギ/レプトセファルス/ピコプランクトン/ダクチロ病/骨曲がり症.
食品工場における床下から侵入する土壌性昆虫の問題
- 表題:
- 食品工場における床下から侵入する土壌性昆虫の問題
- 著者:
- 布施利紀,寺岡雄志(アース環境サービス(株) 開発本部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.6,pp.181-184(2025)
食品工場において土壌性昆虫は,床下で大量発生し,何らかの形で大量に工場内に侵入するケースがある。そのため,これら土壌性昆虫の対策は衛生管理をする上で重要な課題の一つであるが,床下という普段の作業では気づきにくい場所で発生するため,発見や対策が困難となる。今回,問題となりやすい土壌性昆虫や発生事例について述べる。また,土壌性昆虫の工場内への侵入メカニズムや発生した土壌性昆虫に対する応急的な対策および,発生源に対する恒久的な対策方法についても解説する。
Key words:Food factories(食品工場)/Food hygiene management(食品衛生管理)/Soil insects(土壌性昆虫).
食品製造に使用する水の安全管理(基準値・評価値)
- 表題:
- 食品製造に使用する水の安全管理(基準値・評価値)
- 著者:
- 砂山俊二((株)MIZUKEN 分析部 食品事業課)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.6,pp.185-192(2025)
水は食品の製造(原材料の生産から商品の製造)に欠くことのできないもので,食品の製造に用いられる水は,使用工程によって原料用水,製品処理水,洗浄用水,冷却用水などに分類されるが,どの用途の場合でも衛生的で安全な水であることが必須となる。食品の製造などに使用する水については,「飲用適の水」(食品製造用水)としての水の規格があり,食品衛生法では飲用適の水(食品製造用水)の定義,基準,検査頻度などが規定されている。清涼飲料水は食品,添加物等の規格基準 第1食品 D各条において分類され,成分規格(一般規格,個別規格)と製造基準(一般基準,個別基準)が規定されている。また近年の新しい汚染物質として有機フッ素化合物であるPFASがある。PFASは自然界で分解され難く,環境中に蓄積され易く,また風や水などに乗って長距離を移動するという性質があるため,汚染の問題が深刻化している物質の1つである。本講座では,食品の製造に使用する水の法的な基準,清涼飲料水の基準および新たに懸念される汚染物質(PFAS)について説明する。
Key words:食品衛生法/飲用適の水(食品製造用水)/清涼飲料水/PFAS(有機フッ素化合物).
災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題
[5]弱酸性次亜塩素酸水溶液を用いた水災後環境の微生物制御
[5]弱酸性次亜塩素酸水溶液を用いた水災後環境の微生物制御
- 表題:
- 災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題 [5]弱酸性次亜塩素酸水溶液を用いた水災後環境の微生物制御
- 著者:
- 小野朋子((株)エイチ・エス・ピー 研究開発部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.6,pp.193-197(2025)
2018年7月に発生した西日本豪雨災害において,筆者らは除菌消臭を目的とした弱酸性次亜塩素酸水溶液の無償提供活動を行った。また,被災地内家屋にて落下菌および表面付着菌に対する弱酸性次亜塩素酸水溶液の殺菌効果を検証したところ,噴霧および清拭で一般生菌数およびカビ数の低減が認められた。今後とも弱酸性次亜塩素酸水溶液の災害時の適切な活用について研究を進める所存である。
Key words:Weak acid hypochlorous solution(弱酸性次亜塩素酸水溶液)/Western Japan torrential rains(西日本豪雨)/Falling bacteria(落下菌)/Shelter(避難所).
会報 …198 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.7 (2025)
【 目次 】
食品製造業における食品安全人材育成の現状と課題
- 表題:
- 食品製造業における食品安全人材育成の現状と課題
- 著者:
- 青森誠治(SEITA食品安全コンサルティング)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.7,pp.199-203(2025)
本稿では,食品製造業における食品安全人材の育成の現状と課題について論じた。現在,食品製造現場では人手不足が深刻化しており,特に外国人労働者の活用が増加している。その中で,言語や文化の壁を越えた食品安全教育の必要性が高まっている。また,食品安全文化の醸成が安全な製品の提供に不可欠であることを示し,教育プログラムの整備,異文化理解,生成AI等の新技術の活用による課題解決の方向性を提案した。
Key words:Food Safety(食品安全)/Human Resource Development(人材育成)/Food Safety Culture(食品安全文化)/Foreign Worker(外国人労働者)/Education Program(教育プログラム).
災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題
[6]災害における食品分野のリスクと制御
[6]災害における食品分野のリスクと制御
- 表題:
- 災害時における微生物汚染対策の重要性と今後の課題 [6]災害における食品分野のリスクと制御
- 著者:
- 長田 隆(南九州大学 健康栄養学部 食品開発科学科)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.7,pp.205-209(2025)
今後,想定される南海トラフ大地震のような大規模災害では,被災者は長期間にわたる避難所生活を強いられる。避難所生活では,食に関わるさまざまな問題が発生する。その中でも,食品衛生は非常に重要で,衛生状態が悪化すると食中毒などの体調不良を起し,大規模な二次災害になり兼ねない。そこで,避難所での衛生状態が悪化すると,食中毒のリスクが高まることに注目し,調理の仕方,手洗い方法や食材の取り扱いについて教育を行い,食中毒を防ぐための衛生管理を徹底するなど,これまでの災害時の取り組みを基に解説した。また,食中毒事故の報告事例があまりに少ない理由に触れ,食中毒防止対策には,過去の情報収集機能を強化し,広く公開することが必要であることを述べた。最後に,災害関連死の低減策として,高齢者を含む「要配慮者」への食のリスクについても提言した。
Key words:Food poisoning(食中毒)/Evacuation camp(避難所)/Natural disaster(自然災害)/Disaster food(災害食).
薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて-
[1]はじめに:AMR対策の現状とこれからの展望
[1]はじめに:AMR対策の現状とこれからの展望
- 表題:
- 薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて- [1]はじめに:AMR対策の現状とこれからの展望
- 著者:
- 坂上吉一(元 近畿大学)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.7,pp.211-215(2025)
近年,薬剤耐性(AMR)対策は喫緊の課題の一つである。現在,国内外で種々の対策が講じられつつある。今回,「薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて-」に関する講座を企画した。本講座では,AMR対策の最新情報を提供することを主眼として,「AMR対策の現状とこれからの展望」,「AMR対策-薬剤耐性菌の基礎(多剤耐性菌等)」,「食中毒原因菌とAMR」,「ウイルス感染症におけるAMR対策」,「獣医学分野からみたAMR対策」,「水産分野からのAMR対策」,および「真菌感染症分野での薬剤耐性の現状」の7つの題目での構成を予定している。なお,今回,「1はじめに:AMR対策の現状とこれからの展望」と題して,薬剤耐性菌の現状,抗生物質耐性菌への提言,微生物制御の意義,薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)の概要,薬剤耐性ワンヘルス動向調査検討会の報告,および感染症研究の拠点について解説する。
Key words:Antimicrobial resistant bacteria(薬剤耐性菌)/Significance of microbial control(微生物制御の意義)/Action plan of antimicrobial resistance(AMR)countermeasure(薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン)/Antimicrobial resistance and one health(薬剤耐性ワンヘルス)/Infectious disease research(感染症研究).
MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定
[1]MALDI-TOF MSを用いた微生物迅速同定(アドバンス解析):基本原理と『cereco』を用いたセレウス菌の識別
[1]MALDI-TOF MSを用いた微生物迅速同定(アドバンス解析):基本原理と『cereco』を用いたセレウス菌の識別
- 表題:
- MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定 [1]MALDI-TOF MSを用いた微生物迅速同定(アドバンス解析):基本原理と『cereco』を用いたセレウス菌の識別
- 著者:
- 川﨑浩子,牧山葉子,森脇芙美,則武ちあき,菅沼潮音,西村智朗,市川夏子,赤坂真理子((独)製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.7,pp.217-227(2025)
MALDI-TOF MSを用いた微生物同定技術は,医療分野および食品分野において,汎用的な技術としてその活用が進んでいる。近年では,culturomicsにも組み込まれ,微生物を用いた基礎研究から応用研究まで,世界中で活用される技術となってきている。本講座のシリーズ第1回では,MALDI-TOF MS微生物同定技術の基本原理と,独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から提供しているMSスペクトルライブラリーの紹介,さらには通常のMALDI-TOF MS微生物同定法では識別・同定が困難なセレウス菌類縁菌(18種)について,NITEが開発したMALDI-TOF MSを用いたバイオマーカー法の解説と,それを支援するツール『cereco(セレコ)』について具体的な操作方法や解釈の詳細について紹介する。
Key words:MALDI-TOF MS/微生物同定/セレウス/cereco/Bacillus cereus.
会報 …232 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.8 (2025)
【 目次 】
大阪府内で発生したレジオネラ症アウトブレイクの原因と対策に関する考察
- 表題:
- 大阪府内で発生したレジオネラ症アウトブレイクの原因と対策に関する考察
- 著者:
- 西田伸子,井上靖彦,尾沼大輔,小林慶吾,板東知子,山内一寛,木下 優(大阪府茨木保健所),高橋佑介,平井佑治,山本香織,山口貴弘,柿本健作,枝川亜希子(大阪健康安全基盤研究所),永井仁美(大阪府健康医療部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.8,pp.233-242(2025)
大阪府内一定地域でレジオネラ症のアウトブレイクが発生した。1例目から積極的疫学調査および施設調査を行ったところ,患者に共用施設は確認されず,屋外曝露の可能性を疑った。検査を実施した25基の冷却塔(CT)のうち17基からレジオネラ属菌が検出され,レジオネラ・ニューモフィラ血清群1(SG1)が10基のCTと8人の患者から検出された。細菌学的解析手法を組み合わせることにより,患者分離株と1基のCT分離のSG1の遺伝子型が一致することを明らかにし,このCTが曝露源であることを推定した。聞き取り調査の結果,当該施設における管理の手法や体制はレジオネラ属菌増殖防止の観点からは十分とはいえなかった。今後,同様のアウトブレイクを防ぐためにも,菌増殖防止の観点に重きを置いた維持管理基準の検討が進むことを期待する。
Key words:Legionellosis(レジオネラ症)/Cooling tower(冷却塔)/Maintenance standards(管理基準)/Molecular epidemiology(分子疫学)/Survey(調査).
日本防菌防黴学会・研究賞受賞論文
水環境におけるレジオネラ属菌の検出と制御に関する研究
水環境におけるレジオネラ属菌の検出と制御に関する研究
- 表題:
- 日本防菌防黴学会・研究賞受賞論文 水環境におけるレジオネラ属菌の検出と制御に関する研究
- 著者:
- 井上浩章(アクアス(株) つくば総合研究所)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.8,pp.243-253(2025)
著者はこれまでにレジオネラの検出と制御に関する研究に取り組んできた。レジオネラの平板培養検査時の夾雑微生物汚染を低減させるために前処理用の酸性緩衝液の改良,選択培地の開発を進めた。次に,レジオネラの迅速検査法として遺伝子検査法を検討し,浴槽水において遺伝子検査が有効に活用できる可能性を示した。平板培養法と遺伝子検査法の結果の相違を考察するために,冷却水と浴槽水のレジオネラの多様性を調査し,浴槽水と比較して冷却水の多様性が高いことを明らかにした。そして,冷却水からアメーバ共培養法でレジオネラを検出し,VBNCレジオネラの存在を示した。また,様々な環境水のレジオネラ汚染実態を調査し,冷却塔で使用する殺菌剤の種類ごとに検出率を調べ,レジオネラに対する塩素剤の殺菌効果について評価した。レジオネラ対策には精度の高い検査技術と有効なレジオネラの処理技術の両方が必要である。本研究で得られた知見が今後のレジオネラ対策に少しでも役立つことを期待してやまない。
Key words:Amoebic coculture(アメーバ共培養)/Legionella(レジオネラ)/Plate culture(平板培養)/Polymerase chain reaction(PCR).
薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて-
[2]AMR対策で注目される薬剤耐性菌(細菌)の基礎
[2]AMR対策で注目される薬剤耐性菌(細菌)の基礎
- 表題:
- 薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて- [2]AMR対策で注目される薬剤耐性菌(細菌)の基礎
- 著者:
- 奥西淳二(丸石製薬(株) 研究本部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.8,pp.255-261(2025)
本稿では,薬剤耐性(AMR)対策において重要な薬剤耐性菌のうち,特に細菌に関する基礎的内容を概説した。はじめに,AMR対策が国際的な公衆衛生上の課題として認識された以後の国内外動向を紹介し,その視点から考える注目すべき薬剤耐性細菌を述べた。続いて,抗菌薬の主な作用機序として細胞壁合成阻害,タンパク合成阻害,核酸合成阻害を説明し,次に主な耐性化機構として薬剤取り込みの変化,排出ポンプ活性化,標的変異,および薬剤不活化を解説した。更に,アクションプランや創薬研究の対象として重視が必要な薬剤耐性菌からメチシリン耐性黄色ブドウ球菌,バンコマイシン耐性腸球菌,カルバペネム耐性腸内細菌目細菌,多剤耐性緑膿菌の特徴と耐性機構を整理した。
Key words:Antimicrobial resistance(薬剤耐性)/Multidrug-resistant bacteria(多剤耐性菌)/Mode of Actions and Targets for Antibacterial Drugs(抗菌薬作用機序)/Antimicrobial resistance mechanisms(抗菌薬耐性機序).
MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定
[2]偏性嫌気性細菌の迅速同定におけるMALDI-TOF MSの有用性
[2]偏性嫌気性細菌の迅速同定におけるMALDI-TOF MSの有用性
- 表題:
- MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定 [2]偏性嫌気性細菌の迅速同定におけるMALDI-TOF MSの有用性
- 著者:
- 林 将大(東海国立大学機構 岐阜大学),田中香お里(東海国立大学機構 岐阜大学,岐阜大学高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.8,pp.263-270(2025)
マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometer以下,MALDI-TOF MS)を用いた微生物同定法の導入は,微生物検査に大きな革命をもたらした。著者らのような大学の研究室や微生物保存機関では,保存菌株の定期的な品質管理だけでなく,利用者に微生物株を提供する場合における微生物リソースの確認作業,寄託株の再同定や検体解析の際に複数株混在からの菌種の絞り込みを目的とした推定作業にも利用している。なお,菌種の同定に至らない場合であっても,スペクトルパターンに対するクラスター解析の結果から,同一種であるかどうかを推定することも可能である。本稿では,MALDI-TOF MSを用いた同定の中でもとりわけ同定精度が低いとされる偏性嫌気性細菌について,MALDI-TOF MSの有用性について言及し,測定する上での注意点について試料調製方法,培養時間および酸素暴露の影響について著者らのデータに基づいて紹介する。
Key words:MALDI-TOF MS/病原細菌/偏性嫌気性菌/測定条件/酸素暴露.
会報 …272 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.9 (2025)
【 目次 】
食肉・水産加工品の腐敗対策に向けた微生物検査のニーズ調査
- 表題:
- 食肉・水産加工品の腐敗対策に向けた微生物検査のニーズ調査
- 著者:
- 山崎栄樹(国立医薬品食品衛生研究所 食品衛生管理部,帯広畜産大学 動物・食品検査診断センター),平田真樹(徳島大学 バイオイノベーション研究所,徳島大学 生物資源産業学部),三上奈々(帯広畜産大学 グローバルアグロメディシン研究センター,帯広畜産大学 生命・食料科学研究部門 食品科学分野),武間亮香(徳島大学 研究支援・産官学連携センター),森松文毅(徳島大学 生物資源産業学部,徳島大学 研究支援・産官学連携センター)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.9,pp.273-278(2025)
(要約本文略)
日本防菌防黴学会・研究奨励賞受賞論文
日用品の殺菌・抗菌技術ならびに防腐性評価技術に関する研究
日用品の殺菌・抗菌技術ならびに防腐性評価技術に関する研究
- 表題:
- 日本防菌防黴学会・研究奨励賞受賞論文 日用品の殺菌・抗菌技術ならびに防腐性評価技術に関する研究
- 著者:
- 濱田昌子(小林製薬(株)・研究開発本部・ライフサイエンス研究部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.9,pp.279-286(2025)
著者はこれまで約20年間に渡り,医薬品,医薬部外品,化粧品,日用雑貨品等「日用品」の製造販売を行う企業の研究員として,製品の微生物学的安全性の確保(防腐防黴)ならびに製品の付加価値創出のための微生物制御研究に取り組んできた。本稚稿では,これまでに取り組んだ口腔領域,皮膚領域ならびに環境領域の微生物制御研究ならびに,製品の防腐防黴技術研究の概要を紹介する。今後も微生物制御技術をさらに深化させ,消費者の安全性や安心感,満足度の向上に向けて社会的責務を果たしていく所存である。
Key words:Consumer Products(日用品)/Antimicrobial technology(殺菌・抗菌技術)/Preservative efficacy evaluation(防腐性評価技術).
薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて-
[3]食中毒原因菌とAMR
[3]食中毒原因菌とAMR
- 表題:
- 薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて- [3]食中毒原因菌とAMR
- 著者:
- 横山佳子(京都女子大学)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.9,pp.287-297(2025)
(要約本文略)
MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定
[3]糸状菌の質量分析による迅速同定の課題と挑戦
[3]糸状菌の質量分析による迅速同定の課題と挑戦
- 表題:
- MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定 [3]糸状菌の質量分析による迅速同定の課題と挑戦
- 著者:
- 伴 さやか(千葉大学真菌医学研究センター)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.9,pp.299-305(2025)
(要約本文略)
会報 …312 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.10 (2025)
【 目次 】
日本防菌防黴学会・学会賞受賞論文
防菌防黴剤(各種殺菌消毒剤,天然物系ならびに合成系抗菌剤等)による微生物制御に関する総合的研究
防菌防黴剤(各種殺菌消毒剤,天然物系ならびに合成系抗菌剤等)による微生物制御に関する総合的研究
- 表題:
- 日本防菌防黴学会・学会賞受賞論文 防菌防黴剤(各種殺菌消毒剤,天然物系ならびに合成系抗菌剤等)による微生物制御に関する総合的研究
- 著者:
- 坂上吉一(元 近畿大学)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.10,pp.313-328(2025)
「防菌防黴剤(各種殺菌消毒剤,天然物系ならびに合成系抗菌剤等)による微生物制御に関する総合的研究」と題して,河川汚泥および活性汚泥による各種殺菌消毒剤の分解性等に関する研究,院内感染起因菌として問題となるPseudomonas aeruginosaに対するベンザルコニウム塩化物およびクロルヘキシジングルコン酸塩の殺菌機構の解明に関する研究,新規殺菌消毒剤OPB-2045のP. aeruginosaならびにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対する殺菌機構の解明に関する研究,新規殺菌消毒剤HM-242のP. aeruginosaおよびMRSAに対する殺菌性ならびに殺菌機構の解明に関する研究,各種化合物の病原性大腸菌O157:H7のベロ毒素産生抑制効果に関する研究,天然物由来抗菌性物質の各種細菌(耐性菌を含む)に対する抗菌効果ならびに抗生物質との相乗効果に関する研究,Hinokitiolの殺菌性ならびに殺菌機構に関する研究,トイレの黒ずみの原因解明に関する研究,バングラデシュの首都ダッカ市内で購入した乾燥食品および半乾燥食品中の微生物数の実態とそれらの低減化手法に関する研究,および微生物制御に関する連載講座について,解説した。
Key words:Microbial control(微生物制御)/Various disinfectants(各種殺菌消毒剤)/Novel disinfectant(新規殺菌消毒剤)/Black Dirt of Toilet Bowls(トイレの黒ずみ)/Microbial counts in dry and semi-dry foods(乾燥食品および半乾燥食品中の微生物数).
薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて-
[4]ウイルス感染症におけるAMR対策
[4]ウイルス感染症におけるAMR対策
- 表題:
- 薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて- [4]ウイルス感染症におけるAMR対策
- 著者:
- 加瀬哲男(大阪公立大学大学院医学研究科 公衆衛生学)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.10,pp.329-332(2025)
Antimicrobial resistance(AMR)を文字通り訳せば,特定の種類の抗菌薬や抗ウイルス薬等の抗微生物剤が効きにくくなること,または効かなくなることであり,日本語では薬剤耐性となる。ただ今,世の中を騒がしているAMRは薬剤耐性を得た細菌すなわち薬剤耐性菌の問題であり,今回の講座の題目であるウイルス感染症におけるAMR対策は,あまり注視されていない。ウイルス感染症においては抗ウイルス薬が効果を示す疾患もあり,それらの疾患では抗ウイルス薬耐性ウイルスが問題となる。ウイルスと細菌ではその増殖過程が全く異なるので,抗菌剤(抗生物質)は,ウイルス感染症には無効である。しかし,ウイルス感染時に抗菌剤(抗生物質)が投与されることはしばしばおこることであり,その場合は無用な抗菌剤(抗生物質)投与の影響がでてくる可能性がある。この講座では抗ウイルス薬に対する直接の耐性ウイルスの問題とウイルス感染時に投与される結果おこる薬剤耐性細菌の問題について考察した。
Key words:Viral infections(ウイルス感染)/Anti-viral drug resistance(抗ウイルス薬耐性)/Diagnosis(診断)/Antibiotics treatment(抗菌薬投与).
MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定
[4]シーケンスに頼らない種同定を目指して 〜酵母におけるMALDI-TOF MS迅速同定の現状と課題〜
[4]シーケンスに頼らない種同定を目指して 〜酵母におけるMALDI-TOF MS迅速同定の現状と課題〜
- 表題:
- MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定 [4]シーケンスに頼らない種同定を目指して 〜酵母におけるMALDI-TOF MS迅速同定の現状と課題〜
- 著者:
- 遠藤力也(国立研究開発法人理化学研究所バイオリソース研究センター微生物材料開発室)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.10,pp.333-340(2025)
本講座の前回は,「汚染真菌の質量分析による迅速同定の実現に向けた課題」と題して,真菌,特に糸状菌(カビ)のMALDI-TOF MSによる迅速同定手法(以下,MALDI法)について概説した(伴,2025)。これに続き今回は,「シーケンスに頼らない種同定を目指して 〜酵母におけるMALDI-TOF MS迅速同定の現状と課題〜」と題し,同じく真菌の一群である酵母について,MALDI法の現状と課題を考えた。まず,酵母と糸状菌の種同定方法の違いを解説したうえで,筆者がラボで実施している酵母のMALDI法のワークフローを紹介した。次に,酵母を対象としたMALDI法の現状と課題をまとめ,その課題に取り組むべく構築したMALDI-TOF MSレファレンスライブラリEMALiMBを紹介した。野外の樹液酵母の生態を解明する研究開発において,EMALiMBを実際に活用している事例を紹介し,レファレンスライブラリ構築の重要性を解説した。最後に,酵母を対象としたMALDI法の活用法をまとめ,“シーケンスフリー”の種同定実現に向けた今後の展望を紹介した。
Key words:EMALiMB/Reference library(レファレンスライブラリ)/MALDI Biotyper®/species identification(種同定)/Yeast ecology(酵母生態).
会報 …350 / カレンダー …和文目次裏
【 English Contents 】
Vol.53, No.11 (2025)
【 目次 】
265,285,300 nm放射UV-LEDを用いたバクテリオファージQβ不活化効果と相加的・相乗的効果の検討
- 表題:
- 265,285,300nm放射UV-LEDを用いたバクテリオファージQβ不活化効果と相加的・相乗的効果の検討
- 著者:
- 橋口亜由未(岡山大学 環境生命自然科学研究科,島根大学 自然科学研究科),田邊慎人(島根大学 生物資源科学研究科,(株)西原ネオ ECP推進部 設計グループ),佐藤利夫(島根大学 生物資源科学研究科,島根大学名誉教授 生物資源科学部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.11,pp.351-358(2025)
本研究では,265,285,300 nmの紫外線を単波長で放射するUV-LEDと中圧水銀ランプ(MP)および高出力低圧水銀ランプ(LP, 254 nm)を用いてバクテリオファージQβの不活化実験を行い,不活化効果を検討した。さらに,265,285,300 nmの3波長のうち2波長ずつ組み合わせと順番を変えて回分式複合照射を行い,有効波長の複合照射がバクテリオファージQβ不活化において,相乗的または相加的に作用するのかを推定した。その結果,ウイルス生残率(%)はそれぞれの波長において照射エネルギー量が増えるに従い対数直線的に低下し,照射する順番を変えてもその傾きは変わらず,2波長のトータルの照射エネルギー量が同一であると同等の不活化効果が得られた。これらの結果から,MPのように多波長をブロードに放射する水銀ランプでは各波長の相加的効果によってウイルス不活化効果が起こると考えられる。
Key words:Medium-Pressure Mercury Lamp(中圧水銀ランプ)/Bacteriophage Qβ(バクテリオファージQβ)/Inactivation Effect(不活化効果)/UV-LED(UV-LED)/Additive/Synergetic Effect(相加的/相乗的効果).
ビール混濁能を持つ細菌とビール混濁能遺伝子
- 表題:
- ビール混濁能を持つ細菌とビール混濁能遺伝子
- 著者:
- 林 伸之,木ノ内智之(キリンホールディングス(株) 品質保証部食品安全品質保証センター)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.11,pp.359-371(2025)
ビールは,一般に微生物による変敗を受けにくい飲料として認識されており,ビール中で増殖できる微生物は限られている。しかし,一部の微生物は,ビール中で増殖することが知られており,乳酸菌,Pectinatus属等のグラム陰性偏性嫌気性菌,野生酵母がビールを混濁させる微生物として研究されてきた。本総説では,ビール混濁能を持つ細菌(主に乳酸菌)に着目し,ビールの微生物学的安定性に寄与するホップ苦味物質,亜硫酸及びビール混濁菌に特異的なビール混濁能遺伝子の機能について最新の知見を含めて解説する。
Key words:Beer-spoilage bacteria(ビール混濁菌)/Genes involved in beer-spoilage(ビール混濁能遺伝子)/Hop bitter compounds(ホップ苦味物質)/SO2(亜硫酸)/gtb operon(glycosyltransferase family gene of beer-spoilage lactic acid bacteriaオペロン)
黄色ブドウ球菌の各種病原因子に対するカテキンの抑制効果
- 表題:
- 黄色ブドウ球菌の各種病原因子に対するカテキンの抑制効果
- 著者:
- 島村裕子,増田修一(静岡県立大学 食品栄養科学部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.11,pp.373-378(2025)
黄色ブドウ球菌由来のタンパク質毒素であるブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA)および細胞外膜小胞(MVs)は,食中毒やアトピー性皮膚炎の発症や難治化に関与しており,その毒性発現の制御法が求められている。カテキン(catechin)は,主に緑茶に含まれるポリフェノールの一種で,タンパク質や細胞膜と相互作用することが知られている。本研究では,黄色ブドウ球菌の病原因子であるSEAおよびMVsに対するカテキンの影響について検討した。その結果,ガロイル基を有するエピガロカテキンガレートは,SEAと相互作用およびMVsの内包成分を変化させることにより,毒性を抑制することを明らかにした。緑茶の飲用やカテキンの化粧品等への応用により,本菌のSEAおよびMVsに起因する毒素型食中毒やアトピー性皮膚炎などの疾病防止につながることが期待される。
Key words:Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)/Staphylococcal enterotoxin A(ブドウ球菌エンテロトキシンA)/Membrane vesicle(細胞外膜小胞)/Catechin(カテキン)
MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定
[5]MALDI-TOF MSを用いた微生物迅速同定の微生物制御への展開-微生物識別の新たな潮流-
[5]MALDI-TOF MSを用いた微生物迅速同定の微生物制御への展開-微生物識別の新たな潮流-
- 表題:
- [5]MALDI-TOF MSを用いた微生物迅速同定の微生物制御への展開-微生物識別の新たな潮流-
- 著者:
- 中山素一(九州産業大学生命科学部)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.11,pp.379-387(2025)
MALDI-TOF MSによる迅速微生物同定において課題であったデータベースの拡充を,組織されたMALDI-TOF MS微生物同定コンソーシアムでのインハウスデータの共有化を行うことで解決し,格段にヒット率が向上させた。食品工場や原料から分離された野生株の同定において,細胞外多糖等に起因する抽出率の低さが原因で同定出来ない場合には物理的破砕であるビーズ破砕により抽出率を上げることでヒット率が向上することが出来た。また,MALDI-TOF MS微生物同定コンソーシアムでは固体培地上に生育した糸状菌について同定するためのデータベースの構築も行っており,今後食品産業での利用の拡大することが期待される。更に,九産大で構築したプログラムにより16SrDNAをターゲットとした塩基配列解析や従来のMALDI-TOF MSの同定システムでは困難であった近縁種識別や菌株識別の可能性が見えてきたことから,食品産業だけでなく医療分野での院内感染の原因究明等への応用も期待される。
Key words:MALDI-TOF MS/Identification(同定)/Strain Typing(菌株識別)/Microbial Control(微生物制御).
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【 English Contents 】
Vol.53, No.12 (2025)
【 目次 】
サツマイモ基腐病について
- 表題:
- サツマイモ基腐病について
- 著者:
- 川部眞登(農研機構九州沖縄農業研究センター)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.12,pp.399−401(2025)
サツマイモ基腐病はDiaporthe destruensによって引き起こされる土壌病害であり,100年以上前にアメリカで報告された。日本では2018年に初めて報告され,その後,南九州地域でサツマイモ生産に深刻な被害を与えた。本病害は主に種苗によって圃場に持ち込まれ,降雨などによって圃場での被害が拡大する。また,罹病残渣が圃場に残ることで次作の汚染源となることも知られている。そのため,本病害の診断手法と防除手法の開発を行った。診断では,植物の感染の有無の診断手法に加え,圃場の発病ポテンシャルを調べるために,土壌の診断手法も開発した。防除は,「健全苗の生産」と「本圃での病害対策」の二段階に分けて考え,それぞれに対応する防法手法を開発した。これら手法を組み合わせることにより,診断をして適切な防除方法を選択し,効率的な防除につなげることが期待される。
Key words:Sweet potato(サツマイモ)/Foot rot(基腐病)/Diaporthe destruens/Soil-borne disease(土壌病害).
諸外国における飲食店等の衛生管理状態の評価
- 表題:
- 諸外国における飲食店等の衛生管理状態の評価
- 著者:
- 米虫節夫(大阪公立大学大学院 工学研究科 客員教授)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.12,pp.403−416(2025)
飲食店等におけるHACCPによる衛生管理は,世界的な標準になってきた。米国における飲食店の衛生評価法には,幾つかの評価法があるが,PASS, CONDITIONAL PASS, CLOSEDの三段階評価が多い。その評価結果は,顧客からよく見える店頭に表示される。低評価を気にする飲食店では,その低評価を顧客から見えにくくする工夫もされている。しかし,最近は,店頭表示だけでなく,SNSによりGPS情報と連動して,顧客の所在地近辺の飲食店の衛生評価がリアルタイムでわかるようになってきた。地域によっては,過去の衛生状態の評価まで,わかるようになっている。これらは,自店舗の衛生状態をよくする駆動力になってきている。
Key words:HACCP/Hygiene management of restaurants(飲食店の衛生管理)/Hygiene management of restaurants in the state of Hawaii(ハワイ州における衛生管理)/Disclosure of restaurant hygiene status via social media(SNSによる衛生管理状況の公表)/Response to poorly rated restaurants(低評価飲食店の対応).
薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて-
[6]水産分野からのAMR対策
[6]水産分野からのAMR対策
- 表題:
- 薬剤耐性(AMR)対策-最新情報をふまえて- [6]水産分野からのAMR対策
- 著者:
- 福田 穣(大分県水産養殖協議会)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.12,pp.417-423(2025)
水産用医薬品は,動物用医薬品のうち水産動物に使用される医薬品の通称である。養殖生産者が使用基準の範囲で水産用医薬品を使用する限り,獣医師の処方を必要としないが,抗菌剤とワクチンの購入には都道府県が発行する指導書が必要である。水産用抗菌剤は原則として分類群(目)ごとに承認され,使用基準に基づき適正使用が指導されている。歴史的には,ブリ類のレンサ球菌症治療薬であるマクロライド系抗菌剤(Mc)の使用が突出しているが,大分県では生産者へワクチンの普及に努めた結果,Mc使用額がワクチン普及前(1991~2000年)の年平均5.1億円から,普及後(2001~2014年)には年平均0.23億円まで減少した。しかし,2012年に出現したⅡ型レンサ球菌症の拡大により,Mc使用額は再び増加した。水産養殖におけるAMR対策は抗菌剤の適正使用が基本であるが,抗菌剤使用を減らすためには,細菌病流行の変化に対応したワクチン開発が重要である。
Key words:Aquaculture(水産養殖)/Bacterial infection of fish(魚類細菌感染症)/Antimicrobial agent for aquaculture(水産用抗菌剤)/Antimicrobial resistance(薬剤耐性)/Aquaculture vaccines(水産用ワクチン).
MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定
[6]食品製造におけるMALDI-TOF MSを用いた微生物解析法の活用:微生物同定から毒素検出まで
[6]食品製造におけるMALDI-TOF MSを用いた微生物解析法の活用:微生物同定から毒素検出まで
- 表題:
- MALDI-TOF MSによる微生物の迅速同定 [6]食品製造におけるMALDI-TOF MSを用いた微生物解析法の活用:微生物同定から毒素検出まで
- 著者:
- 高橋尚美((株)明治)
- 掲載:
- 日本防菌防黴学会誌,Vol.53,No.12,pp.425−432(2025)
MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析)は,迅速かつ簡便な微生物同定法として広く利用されている。食品企業である当社でも,微生物同定システムを導入し,原料や製品,製造環境などから分離された微生物を同定して高度な衛生管理に繋げている。加えてインハウスライブラリや公開ライブラリなどを登録してデータベースを拡充することで,同定精度の向上にも取り組んできた。微生物同定用途以外にも,微生物毒素の検出法としてセレウス菌のセレウリド検出法を開発し,活用している。セレウリド産生株と非産生株の識別や,低温増殖性を有するセレウスグループの菌種との同時識別,さらにはセレウリド産生条件の検討も可能である。MALDI-TOF MSによる微生物解析法を幅広く活用することで,安全で高品質な食品製造を実現できるであろう。
Key words:MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析)/Microbial identification(微生物同定)/Bacillus cereus(セレウス菌)/Bacillus cereus group(セレウスグループ)/Cereulide(セレウリド).
微生物学実験講座に参加して
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